迷いの森のお話です。
森に入る者をハープの音色で道に迷わせる悪魔がいました。
悪魔は森で迷った者の魂を食べるのです。
森から出られず、道に迷い、苦しみ生きたいともがくその命が大好物でした。
ある時また獲物が森に入り込みました。
悪魔はさっそくハープを奏で獲物を道に迷わせようとしますが
今回の獲物は森の奥に入るなり一歩も動きません。
しばらくしても動かないので我慢できなくなった悪魔は獲物に声をかけました。
獲物は悪魔の姿に驚くことはありませんでした。
獲物はこう言います。
迷いの森の噂を聞いてやってきたのだと、叶わぬ恋に打ちひしがれ死のうとしたができず
いっそ悪魔に命を奪ってもらおうとここに来たのだと。
悪魔にとって迷惑な話でした。
悪魔は心から生き延びたいという魂が好物で、死にたがりの魂は好みではありませんでした。
悪魔は考えました、ならば獲物が心から生きたいと思うようになる曲をハープで奏でて
元気になったところで命を頂こうと。
それから悪魔は自分で聴くのも恥ずかしいような恋の唄を造り獲物に毎日聴かせました。
そうしていくうちに段々と獲物は元気になり、悪魔もまた獲物の元気な姿に心をときめかせていきました。
やがて悪魔は迷いの唄をやめ、森でひっそりと恋の唄を奏でるようになりましたとさ。