■大鴉の血を引く鳥人の家系は、武人を多く輩出した家柄だった。
彼らは別名烏天狗と呼ばれ、主に朝廷で要人の護衛や、神宮のお社の警備をしていた。
美しい三日月が昇った夜、とある大鴉が分家である大瑠璃の家の娘と逢瀬を交わしてしまっていた。
血筋を重んじる大鴉家は、生まれた子供を追放した。そして、件の大鴉と大瑠璃は、お互い会う事を禁止され、子と生を歩む事も禁じられた。
まだ幼い子供を野に置き去りにし、いずれ一族の汚点であるその子は野垂れ死ぬであろうと、徐々に忘れ去られた。
その子供は物心ついた時から、野盗や乞食をして生きていた。彼が唯一持っていたものは、父が密かに受け継がせた烏天狗の仮面と、母から名付けられた〈玉藍〉という名前だけだった。
大鴉の強靭な体と、大瑠璃の麗しい翼は、人買いの格好の餌食だった。
荒んだ幼少時代を送った彼は、いつしか戦うことだけが自身の生きがいであるとし、奴隷や用心棒を経てひたすら戦いに身を投じた。
大瑠璃の翼を持つ烏天狗はたちまち噂になり、大鴉家の耳にも入った。
直ちにこれを排除せんと、彼の元へ刺客が送り込まれた。
自身を取り囲む十数人の暗殺者を見て、彼はもう喋り方さえも忘れ、血のはねた仮面の下で薄く笑った――。
玉藍〈ユラン〉は美しい藍色という意味合いです。
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